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藁をも縋る思い(2)

意識●●研究所には、学校や家庭に居場所のない
子供たちが全国から集まってきていた。みんなと一緒に
規則正しい生活をしながら、スタッフに勉強を教えてもらい
瞑想や内省の時間で自分と向き合い、心を穏やかにさせていく
そうだ。

その日、父は私の為に初めて仕事を休んだ。
両親と共に通されたそこの応接室には、ひげをはやした
おじさんが座っていた。そのおじさんは私の目をじーと
見つめて、一言「もう大丈夫だよ。今まで辛かったね」と
言った。そしてすべて分かっているんだよ・・・という顔を
しながら私の頭をそっとなでた。
私は全身の力が抜け、涙がぽろぽろ流れた。
「この人なら分かってくれる!ここなら治してくれる!」

いつもの冷静な両親もこのときはこのおじさんに深々と
頭を下げた。「娘をどうぞよろしくお願いいたします」
帰宅後、父は「もうパパやママだけじゃ・・・無理なのかなって・・・」と涙ぐんだ。
母はこの日の日記に複雑な気持ちを書いている。
「’90/4/10 病院?それとも意識●●研究所?・・・迷う」

両親は「家族だけで何とかしたい、何とかしよう」とずっと
思ってきたんだと思う。でも一向に良くならない、むしろ
どんどん状態が悪化していく私を見て、もうどうしていいのか
わからなくなってしまったのだろう。

2日後、私は一人で4泊5日の内省セミナに参加した。
他にも20人くらいの人たちが参加していた。

午前中は、一人ずつ薄い壁で仕切られた薄暗い空間で、
過去の自分についてじっくりと考える。
1時間置きにスタッフが来て「○歳のころのあなたには
どんなことがありましたか?どう感じましたか?」と
聞かれる。「はい。~歳の私は~なことがあり~だと
感じました」と私。
「では次は○歳から○歳までのご自身についてお考え
ください」とスタッフ。二人で向き合って合掌。
一体これに何の意味があるんだ??1時間が3時間くらいに
感じる。正座も辛い。
となりの壁ではなにやら甘ったるい声がする。
1時間に1回しかスタッフが来ないことを良いことに
北海道から母親に連れてこられた非行少女と、引きこもり
の男の子が内省そっちのけでいちゃいちゃしているのだ。
はぁ~(-0-)…気になる。他でやってくれ。

午後はみんなで大きな輪をつくり、おじさんのありがたーい
お言葉と気を頂いた。
おじさんが渋い顔をして手を左右に振ると、前に
立っていた人たちがばたばたと倒れていったり、
「軽くなーる、軽くなーる」とおじさんから言われた
男性を、軽々持ちあげてしまって驚くおばさん
とかを見させて頂いた。
私はもう感動しっぱなし。素直にすごい!と思った。

そんなこんなでみんなの興奮が最高潮に達したころ、
今度は目をつぶり、自分を赤ちゃんまで退行させていけと
言われた。んなことできるかいな。でもおじさんがそう
できるように、一人一人の眉間につんつん!と指を当てて
いく。
おじさんに触られた部分がほんわか温かくなってくる。
不思議だった。
次に隣の人と抱き合う。初めて会った人と抱き合うのは
すごく恥ずかしい。
でも他の人たちはそれが普通のことだと言わんばかりに
抱き合っている。
私と隣の人がお互いに照れて突っ立っているとスタッフが
飛んできて「はい、抱き合って!抱き合って!」と
無理矢理私たちを抱き合わせた。
周りからすすり泣く声が聞こえてくる。赤ちゃんのように
バブバブいいながらおしゃぶりしている人もいる。
半狂乱になってしまった人、白目を向いて倒れている人
もいた。抱き合った者同士が交互に相手を慰めたり
介抱している。
すると私が抱き合った人がいきなり暴れ出した。
私は思わず後ずさりしてしまった。
みんなの変貌をみて、すごく焦った。
私もああなりたい。っううか、ああならなくてはやばい!

嘘泣きしてみた。そしたらスタッフに「もっと泣いて
いいのよ!心の底から泣いて!赤ちゃんに戻っていい
の。あなたは今赤ちゃんなのよ」と叫ぶように脅すように
言われた。みんなが私を囲んで私が変わるのを待っている。
もう必死だった。「私は赤ちゃん。私は赤ちゃん」
でもどうしても自分を捨てられない。
だんだん「なんで私だけ、みんなのようになれないの?」
と悲しくなってきた。
もしかしたら他のみんなも演技をしていたのかも
しれないとも思った。でもどうしても演技には思えない。
あれが全部演技ならみんなすごすぎる!怖すぎる!

疲れた。とても疲れた。なのに夜は全然眠れなかった。
常に神経が高ぶっていた。それは他の参加者も同じだった。
誰もが興奮していた。
翌日もその翌日も同じことが繰り返された。
最終日にはどこまでが演技なのかわからないくらい
赤ちゃんの自分に入り込むことができるようになっていた。

セミナー最終日。私は参加者との強い連帯感を感じ
みんなと抱き合い「また会おうね」と泣きながら
握手をして別れた。
最後まで逃げずに、訳の分からないことをやり
遂げられたことに妙な充実感と達成感を感じていた。

この5日間、過食したいという気持ちには一度も
ならなかった。
スタッフに「ここにいれば過食はしない。だからこのまま、
私たちと一緒にここに住んで元気になっていけば?」と
言われた。
思わず「はい!」と言いそうになった。
でもここでの生活は、自由が全くないことを北海道の
非行少女から聞かされていた私はしばらくの間は自宅から
ここに通ってみることにした。

こうやってセミナーやここに通うことに、いちいち
多額のお金がかかることなんてことは全く知らずに。

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