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流れ星

一気に決めてしまったハードスケジュール。もし
過食してしまったら次のプランには進めないだろう。
でも家には帰りたくない。帰ったらまた過食しちゃう。

すごく気が張っていた。少しでも緩ませたら
絶対に過食しちゃうなって思った。だから
ホッと一息つくのも怖かった。

山中湖の民宿はそれはそれはぼろかった(笑)。
カビだらけだしクーラーもない。
そうとは知らずにルンルン気分で泊まりにくる人たちが
かわいそうなくらいだった。
同じ時期に一緒に働く人たちはみんな私と同年代の
子たちだった。でも一人だけすごく格好良い男の子が
いてみんな、きゃーきゃー言っていた。
私もかっこいいな!とは思ったけど、なんでこんな子が
こんな地味なところにバイトにくるのかなぁ?って
不思議に思った。

私の仕事は客室の掃除と料理の盛りつけの手伝い。
団体客が多く本当に忙しかった。痩せようとしなくても
痩せそうだ。

朝は誰よりも早く起きて厨房に行った。寝坊してくる子たちが
信じられなかったが、それを怒らない周りの大人たちも
信じられなかった。
私がいなかったら一体どうなるんだろう?
お客さんの朝ご飯が間に合わないじゃない!

一人でイライラムカムカしていた。でもみんなはとても
和気あいあいとしていて楽しそうだった。
それが余計むかついた。

ここでの食事はみんなで大皿から自分の分を好きなだけ取れる。
バランスなんて全然考えられていない。
朝からコロッケがド~ン!と真ん中に置かれ
後はみそ汁と御飯だけ。泣きたい気分だった。
でもみんなの前で過食はできない。つまりここで食べないと
後は何も食べられない。でもそれじゃ動けないほど
暑い夏だった。食べないとマジで倒れそうだ。
太っているのに大食いなのも恥ずかしいが
太っているのに小食なのも恥ずかしかった。
周りの目を気にしながらおみそ汁をすする。
何をどのくらい食べればいいのかが全く分からない。
みんなと一緒に食事を摂るのがすごく苦痛だった。

私以外の人たちは本当に楽しそうに会話をしながら
食べていた。痩せている子も驚くほどよく食べていた。
その盛り上がりの延長でみんなでカラオケに行ったりもした。
でも私は誘われても行かなかった。
カラオケに行ったら歌うだけじゃない。
食べなくちゃいけないじゃない!
それに夜遅くまで遊んでいたら、明日の仕事に差し支える
じゃない!
そのうち誰も私を誘わなくなった。

夜、誰もいない部屋に横たわり、ふと悲しくなった。
「私は何やってんだろう。誰とも馴染めない。もう帰ろうかな」

次の日、私に1通の手紙が届いた。
伊豆で一緒に断食したきみちゃんからだ!

 あやちゃん、元気?私は伊豆から帰ってきてから
 ずーっと過食しています。何の為に断食に行ったんだろう。
 すごい落ち込んでいます。でも一人で頑張っているあやちゃんの
 ことを思うと頑張ろう!って思います。
 東京に帰ってきたらお土産話聞かせてね!楽しみに待っています

涙が出た。 注)私は泣き上戸。
母に電話したら「きみちゃんって人から
電話があってそっちの住所を聞かれたから教えたわよ」
と言われた。
こんな私を覚えていてくれたなんて。
こんな私にわざわざ手紙をくれるなんて。
こんなこと初めてだよ!嬉しい!嬉しい!嬉しい!

その日の夜、格好良い兄ちゃんが部屋に来て
「星がさ、すんげーきれいなんだけど・・・来る?」
彼と一緒に屋上に出てみてびっくりした。
ほ、星だらけじゃんかっ☆★☆
すごいきれい!

他の子たちは既にゴザを敷いてその上に寝ころんでいる。
私も寝ころんだ。ゴザが冷たくて心地良い。
星がサーッと流れる。あっちでもこっちでも流れる。
流れるたびにみんなはしゃいだ。
私も手を叩いてはしゃいだ。

そうだ、願いごとを言わなくちゃ。
「みんなと楽しく過せますように☆」
ここで大切なのは痩せることよりも、みんなと楽しく過ごすこと。

満天の夜空を眺めながら
私は、もう少しだけ頑張ってみよう!と思った。

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